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「6才のボクが、大人になるまで。」(ネタバレ)  奇跡の映画。

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※ネタバレありです。

「ビフォア・ミッドナイト」のリチャード・リンクレイター監督が、ひとりの少年の6歳から18歳までの成長と家族の軌跡を、12年かけて撮影したドラマ。主人公の少年メイソンを演じるエラー・コルトレーンを筆頭に、母親役のパトリシア・アークエット、父親役のイーサン・ホーク、姉役のローレライ・リンクレーターの4人の俳優が、12年間同じ役を演じ続けて完成された。米テキサス州に住む6歳の少年メイソンは、キャリアアップのために大学に入学した母に伴われてヒューストンに転居し、その地で多感な思春期を過ごす。アラスカから戻って来た父との再会や母の再婚、義父の暴力、初恋などを経験し、大人になっていくメイソンは、やがてアート写真家という将来の夢を見つけ、母親のもとを巣立つ。12年という歳月の中で、母は大学教員になり、ミュージシャンを目指していた父も就職し、再婚して新たな子が生まれるなど、家族にも変化が生まれていた。(引用:映画.com)


スタッフ
監督リチャード・リンクレイター
製作リチャード・リンクレイターキャスリーン・サザーランド
製作総指揮ジョナサン・セリングジョン・スロス

キャスト
エラー・コルトレーン メイソン
ローレライ・リンクレイター サマンサ
パトリシア・アークエット オリヴィア
イーサン・ホーク メイソン・Sr.

 

自らの人生に影響を与える映画、なんて軽々しくは言うけど、そういった類の映画だと思う。
6歳の少年メイソンとその家族の変化と成長の物語を、なんと同じキャストで12年間撮り続けた映画。前例のない撮影スタイルだが、「ビフォア~」シリーズのリンクレイターと言われれば「なるほど」と納得できるのもどこか可笑しい。あまりに稀有な映像体験で、どう捉えたらいいのかわからなくて、見る側にとってはある意味非常に難しい作品だろう。

リンクレイターは毎年夏休みにキャストを集結させ、数日間集中して撮影にあたったという。でも、普通に考えればこんな企画絶対無理があるわけだ。まだ6歳のコルトレーン君や監督の娘・ローレライちゃんが「演技をしたくない!」と思春期に思って駄々をこねたら終わりの話である。というか、そんな幼少期から映画の撮影なんかされたらたまったもんじゃない。絶対にグレる。しかもこの企画は当然ながら口外厳禁。もし自分が同じ状況に置かれたらと思うとゾッとするが、この二人の天才役者はやり遂げた。また、怪我をしたり死んでしまったらそれこそどうしようもなくなる。さらにはこの企画自体にお金を払う出資者がいない。「12年後にお金を返します」なんてビジネスにならないからだ。
あまりに多い障害をスタッフ・キャストが乗り越え、この2014年に公開となる。まずそれだけで“奇跡”なのは間違いない。

いやぁしかし、本当に観ていて不思議な気持ちになる。この映画、例えば「11歳のメイソン――」「14歳になったメイソン――」みたいな字幕はない。観客に対して何歳になったかの提示がない。それでも、わかるのだ。成長が。体格はもちろん顔つきや口調が次第に大人びていく。同じキャストで数年おきに作られる映画はごまんとあるが、1年ごとの成長を、まるでその映画の中を生きているように見せつけられる。すさまじい違和感、未視感というのだろうか。

ストーリーは至って単純、どこにでもある日常の話を切り取っているだけだ。
家庭内での問題、学校生活、初恋、セックス――。異様に涙が出てくるのは、観客自身がメイソンに感情を乗せて成長させられていく錯覚に陥るからだろう。
「時は止められない」。この現実をまざまざと見せつける。これが仮に20歳~32歳までの話だとしたら、当然無意味だ。6歳から18歳という、もっとも多感な時期を抽出することによって、私たちの不完全な過去の記憶と密接にリンクするようになる。

メイソンとサマンサ、二人とも素晴らしいが、母親役のパトリシア・アークエットも助演女優賞ものだった。ああ……。子供を持つ母の視点はこんなにもつらく切なく面白く喜怒哀楽にまみれているのだろうか。子供を持ちながら二度離婚し、子供には責められ男運はなく、それでも自分のやりたいことをやるが躓いて……。そしてラストに子供たちは大人になり、家を出ていく。
「結婚して出産して離婚して先生になってあんたたちを卒業させて。。。。もう私のイベントは葬式だけなんだよ!」(かなり違うけど大体こんな感じのことを言う)。
これ、自分の母親を見ていればわかる。子供が家を出た後は、親は自由だ。でもその自由は、死まで直結することを意味しているかもしれない。12年間に及ぶ撮影、子供は子供でめちゃくちゃ大変だろうが、すでに大人の俳優が12年間毎年子供相手にむき出しの演技をすることの労力もはかり知れない。アークエットの演技に賞賛を送りたい。

この作品の面白いのはその年代ごとのカルチャーが多用されているところ。ゲームボーイアドバンスSPをやっていたメイソンはやがてXBOXでHaloシリーズをプレイし、さらにはWiiのボクシングゲームにまでたどり着く。このころ時代はゲームとともにあった。ほかにもその時に流行った音楽やスポーツ、さらには政治の要素が入れ込まれており、色々と感傷的になってしまう。時が過ぎるのは早い。早すぎる。メイソンもサマンサもどんどん大きくなっていく。お酒飲んでみたり女の子と付き合ってみたり、親に反抗してみたり……。この映画には私自身が生きてきた人生が詰まってる。

ふと松下幸之助の名言を思い出した。

「どんなに悔いても過去は変わらない。 どれほど心配したところで 未来もどうなるものでもない。 いま、現在に最善を尽くすことである。」――松下幸之助

ラストシーンでメイソンは似たようなことを言う。一瞬一瞬が積み重なって自分は構築されていく。無駄なものなどない。それがいいことでも悪いことでも、時は進む。

ちなみに本作は来年発表のアカデミー賞最有力候補と言われている。
第72回ゴールデン・グローブ賞では作品賞・監督賞・脚本賞・映画ドラマ部門助演女優賞(パトリシア・アークエット)・助演男優賞(イーサン・ホーク) と5部門にノミネート。これまで第64回ベルリン国際映画祭で監督賞(銀熊賞)を受賞、また、ニューヨーク映画批評家協会賞、ワシントンDC映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、ボストン映画批評家協会賞など、数々の映画賞を総なめにしている。
http://www.fashion-press.net/news/12106

長尺だけど素晴らしい映画だった。でも、きっと観ていて鬱々とする人もいると思う。私もなりかけた。時という現実を見つめるのは凄い残酷なことなんだと考えずにはいられない。